江戸の祭り


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神田

【2003版】

Date: Mon, 12 May 2003 22:38:19 +0900
野閑人です。

先週後半から若干天候不順で涼しい日が続くねえ。
11日の日曜日は8日から始まった神田神社の例大祭の4日目で、最大のイベント神田各町神輿の宮入(みやいり)の日であった。

御茶の水駅でツルさんと待ち合わせて、見に行ってきた。



明神様のご神体は、大黒様に恵比寿さんに平将門の三柱。
将門は何故か昔から江戸っ子に非常に人気がある。



今年は隔年に行われる本祭り。昨年は陰祭りの年で町神輿は出なかった。
江戸の三大祭というのは神田明神祭、深川八幡祭、山王神社祭である。
このうち神田祭と山王祭は江戸時代には千代田城まで乗り込んで将軍の上覧に供した。そのため天下祭と呼ばれた。
当時は神田、山王とも、全て山車(だし)の行列で神輿は出なかった。



明治期になって電線が張り巡らされて以後山車の巡行はできなくなり、その後は神輿渡御に変わってゆく。
深川八幡祭だけは、はじめから勇ましい神輿の渡御であった。
そのため江戸期から、

   神輿深川 山車神田 だだっ広いが山王様

と言いはやされた。



聖橋を渡り湯島聖堂の横を歩いていると、♪朝から聞こえる笛太鼓。
祭囃子の定番、神田囃子のリズムに乗って、日の出から暗くなるまで100基以上の町神輿が神田神社の鳥居をくぐって宮入する。
各神輿は、引き縄式の囃子屋台に先導されて次々とやって来る。
大太鼓、小太鼓、笛、鉦の早拍子の心地よさ。
神田囃子の江戸前の粋さは生演奏を聞かないとなかなかわからない。
神田囃子保存会には若い女性が多く、皆見事に手慣れた演奏振り。
各自が大太鼓、小太鼓、笛、鉦のどれでも自由自在に扱えないと一人前ではないという。
市井の普通の男女が2年に1度の本祭の日のため、普段から練習している。



江戸の祭は神輿の勢子も囃子手も、例えばよさこい祭なんかにに比べると、地味な衣装であると言える。即ち非常に伝統的な衣装であり、
それを変えないのが江戸っ子の心意気といえば言える。
男女とも膝まである印半纏を着、下は黒い股引を足首までぴっちりとはき、黒足袋にわらじがけ、もしくはわらじは履かずに黒足袋でじかに歩く。
頭(かしら)には粋な豆絞りの鉢巻。


参道から境内まで立錐の余地が無いほどの人波をかき分け、神輿が神社に入って行く。ツルと野閑人はその後について行った。
境内の常設神楽殿では今日は朝から神田囃子の演奏が延々と続いている。
夜明けと共に宮入を始めた町神輿はその最後尾が宮入を終了する頃にはとっぷりと日が暮れているだろう。その間神田囃子は演奏され続けるのだ。
しばしの時間、お囃子に聞きほれていた。



野閑人は嫌いなのだが、神田祭では各地から協賛もしくは応援のかたちで、いくつかの郷土芸能が披露されている。迂回して本殿の裏へ出ようとすると、勇壮な大太鼓小太鼓の音が腹に響いて鳴り渡ってくる。
今日は境内の広場で関東周辺の太鼓演奏グループが競演をしている。
野閑人は、今日は神田囃子だけ聞くことができれば満足なので、急ぎ行き過ぎようとすると、ツルさんが、「聞いていこ」と袖を引っ張る。
「なんで?」「若いぴちぴちの娘がいっぱい演奏しゆう。」「ほんなら見て行こか。」というわけで、しばし、腹に響く太鼓の音を聞きながら、見た。



本殿の周りに江戸中から勧請した色んな神社の分祠や石碑が並んでおり、回廊式庭園みたいにに本殿を一周りしながら見物できるようになっている。
我らおんちゃん二人、喉が乾いたので、びっしりと出ている香具師の露店の一つで、冷たいビール、じゃなくて、メロンジュースとイチゴジュースをそれぞれ買って飲んだ。

銭形平次と八五郎(ガラッ八)の石碑の前でツルさんの写真を撮ってやった。
さて、ツルさんは平次親分の柄かガラッ八の柄かと、野閑人は一瞬考えた。
八「てえへんだ!てえへんだ!親分!てえへんだい!」
平次「おう、また、八のてえへんだが始まった」
銭形平次は言うまでも無く野村胡堂の小説に出て来る架空の人物であるが、しかし「明神下の親分」と言えば銭形平次であり、こんな石碑が建っているのも江戸総鎮守の神田明神社らしい。



鳥居を抜けて神社に押し登ってくる神輿と群集のために参道からは出られず、裏の急峻な石段を降りて、明神下に抜けた。神田神社は湯島台地の東端にあり、台地の東側は崖といってもよい急坂である。
南側には川幅広く神田川がゆったりと流れている。



神田川の対岸のお茶の水駅に隣接した3階建ての喫茶店の最上階に上がり、神田明神の方角を眺めながら二人のおんちゃんは弱った足腰をいたわった。
眼下は深く神田川の流れ、岸の青葉若葉の上に巨大なアーチ橋の聖橋が架かる。
その向こうは湯島聖堂の森で鬱蒼たる樹木の陰になり神田神社は見えない。
やがて宮入を終えた一基の帰り神輿が聖橋上にやってきた。
数十人のえんじ色の印半纏の群れに担がれて橋を渡って行くのが見えた。
雨が降りそうに曇り空が重たくなってきた。

    神田川 祭の中を 流れけり   万太郎

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